ラ・プティト・バンド 東京公演

 J.S.Bach  ブランデンブルグ協奏曲 No.4 No.6 No.5 No.3
  30,Sep.1998  グリーンホール相模大野



  ラ・プティト・バンドが今年も来日した。ここのところ、モーツアルトやハイドンなど、古典派のプログラムを中心にした活動をおこなっていたようだが、ついにバッハをひっさげての登場となった。今回の来日の特色をあげれば、まず各声部1名づつという室内楽的な編成によること、また寺神戸亮(Vla)、鈴木秀美(Vc)という優れた日本人奏者が加わっていること、そして何より、クイケン三兄弟がそれぞれの楽器を手に全員が来日を果たしていること、などだろう。こうなれば、いやが上にも期待は高まらざるを得ないのだが、実際の演奏は、その期待を充たしてなお余りあるものであった。
 まず第4番。第3楽章のテンポの取り方が絶妙だ。この楽章は、テンポの取り方に大きく左右される。きびきびした中にも彫りの深さを感じさせる職人芸が、フーガの妙味をかもしだす。シギスヴァルトのバイオリン(カタログによれば、1700年頃、ミラノ、ジョヴァンニ・グランチーノ作)は、ややくすんだ音色ながら、全体によく溶け込んでいる。第6番。ここは寺神戸のヴィオラが聞きどころ。美しい響きは、音の織物の中の緋糸のよう。今回のAプログラムでは、寺神戸はヴィオラのみを担当しているのもめずらしい。ヴィーラントのガンバも変わらぬよさを感じさせてくれた。第5番。1パート1名づつという今回の編成の特徴がいちばんよく表現された演奏であった。シギスヴァルトのバイオリン、バルトルドのフラウト・トラヴェルソ、アンタイのチェンバロの3つが親密な対話を繰り広げる。とくに、バルトルドのフラウト・トラヴェルソが決して出過ぎることなく滋味を効かせていたのが好印象である。
 そして、なんといってもこの日の出色の出来は第3番であろう。演奏の順序が変更になり、この3番が最後に置かれたのも頷ける。おそらく、メンバーも一番聞かせどころと意識していたのに違いない。すべての奏者の呼吸がピタリと合い、乱れをみせぬアンサンブル、それでいて緊張感はなく、いとも楽しげなセッションが展開されていく。まさに「弦のラ・プティト・バンド」の面目躍如といったところだ。
 そのほか、鈴木秀美はいつもながらの落ち着いた、確実感のある演奏で聞き手をひきつけてくれた。
 とにかく、楽しめるブランデンブルグ、バッハの良さをじみじみと感じた一夜である。アンコールでは、Bプログラムの曲目である管弦楽組曲第2番ロ短調」から3曲も演奏してくれるサーヴィス精神も、彼らの音楽への姿勢を語っているようで興味深い。


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